遺言とは

相続人が複数いる場合で相続が始まると、遺産はいったん複数の相続人が共有している状態になります。
この共有している状態を個々の単独した所有に分けることが遺産分割です。その際に、被相続人(亡くなった方)が生きている間に「遺言」で相続財産の分け方を指定していた場合は、「遺言」の内容に従い相続財産は分けられることになります。
「遺言」が無い場合は相続人全員の協議による「遺産分割協議」により相続財産の分割を行うことになります。
つまり、「遺言」は相続人の間で協議する「遺産分割協議」に優先することになります。


遺言は遺産分割協議に優先する

遺言    >    遺産分割協議

遺産分割の流れ

1

被相続人が生前に残していた「遺言」

遺言が無い ↓

2

相続人全員の「協議」

協議がまとまらない ↓

3

家庭裁判所の「調停」

話し合いがまとまらない ↓

4

家事裁判官が分割方法を決める「審判」

遺言の効果

  • 遺言は、相続人同士の争いを防ぐことができます
  • 遺言を作成しておくことで、相続人の負担を減らすことができます
  • 遺言者本人の生活を守ることができます

遺言を残していないと・・・

  • 相続人が複数いる場合には、遺産分割協議をしなければならなくなります。
  • 遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の「調停」に移行してしまいます。
  • 遺産分割協議が長引いて納税申告期限までに協議がまとまらない場合、特例や税額控除が受けられないなど税制面で不利益を受けることがあります。

相続人の負担が発生、遺産分割協議で争う可能性・・・

増加する遺産分割事件の件数

遺産分割事件の推移をデータでみてみると、平成14年の遺産分割事件数11,223件に対して、平成24年には15,286件と4,063件も増加しているのが分かります。
遺産分割事件グラフ

遺言が必要なケース

亡くなった後に家族(相続人)が遺産で協議する負担を無くしたい

遺言は、相続人同士の話し合いで相続財産を分割する「遺産分割協議」に優先します。遺言があれば相続人は相続財産を分け合うという大変デリケートな「遺産分割協議」をしなければならなくなります。その際、相続人全員が不満なく納得するような相続財産の分割がどれだけできるのでしょうか。相続人にとってはとても負担のかかることが「遺産分割協議」です。

遺言者が法定相続分と異なる配分をしたい

遺言がなければ、民法が定める「法定相続」に従って、遺産を分けることになります。ただし、推定相続人(相続する順位にいる人)の生活はそれぞれ異なります。安定した仕事についており退職金も十分だるなど生活が問題ない方、一方で仕事もお金もないため将来が心配で仕方がない方。さらには、近くにいて常に面倒を見てくれている方、あるいは遠くにいて連絡も取っていない方など様々な理由で、法定相続分と異なる配分をしたいと考える方は少なくないと思います。

遺産の種類や数が多い

遺産分割協議の場で、法定相続分で配分することについては協議が一致していても、相続財産の種類や数が多いため、誰にどの相続財産を取得するかで協議がまとまらない。あるいは争いが起こってしまうしまうこともございます。遺言でしておけば、そのような事態を回避することができます。

推定相続人が配偶者(妻・夫)と兄弟姉妹、親の場合

配偶者と義理の兄弟姉妹との話し合いは、必ずしもスムーズにいかない場合も多いものです。兄弟姉妹には遺留分(遺産の一定割合の取得を相続人に保証する制度)が無いことから、遺言があれば全て配偶者に相続させることができます。また、親には遺留分がありますが、遺言でより多くの相続財産を配偶者に残すことができます。

個人事業主や小規模事業者の場合

個人事業主や小規模事業者において、相続により事業にかかる財産が分散されることで事業自体が成り立たなくなってしまう恐れがある場合には、遺言をしておくことで経営を安定させることができます。

推定相続人以外のかたに相続財産を分配したい

遺言が無ければ、相続財産を受けれません。

  • 息子(長男)の嫁
  • 内縁の配偶者
  • 第1順位ではない相続人(孫など)
  • 相続人以外でお世話になった方や団体
  • 遺産の一部を寄付したい

遺言があったほうが相続が円満に行われると思われる場合

  • 推定相続人の中に、行方不明者や浪費者がいる
  • 推定相続人同士が仲が悪い
  • 先妻の間に子があり、後妻がいる
  • 1人で生活している未婚者
  • 愛人との間に子がいる

遺言の注意点

安心な公正証書遺言

公正証書遺言は、手間と費用などがかかる一方で、公証人が作成することで、不備や偽造の心配なく安心して遺言を残すことができることから、私どもは安全・確実な「公正証書遺言」をお勧めしております。

自筆証書遺言は特に注意する

自筆証書遺言は、簡単に作成ができ費用もかからない一方で、形式の不備や紛失・偽造のおそれがあることから作成する場合は特に注意をしてください。

「遺留分」に配慮する

「遺留分」を無視した遺言を作成することもできます。しかしながら、「遺留分」を無視された相続人とのトラブルに発展する可能性もございます。できる限り「遺留分」に配慮した遺言を作成し、「遺留分」を残さない場合でも、なぜそうしたかの理由を「付言」で付記するなどしておきましょう。

意思能力が無ければ作成できない

意思能力とは、遺言を作成することができる能力のことです。遺言能力がないと判断された方が遺言書を作成しても無効になってしまいます。成年被後見人は原則として遺言能力はないとされています。なお、未成年であっても15歳に達していれば、遺言を書くことができます。

「付言」で遺言するにいたった動機・心情をしるす

遺言者が遺言をするにいたった動機や心情を「付言」でしるしておくことは、法律的には意味がございません。しかしながら、大切な家族に“想い”を伝え、また関係する方々が遺言の内容に納得してもらう効力はあると思います。

「遺言執行者」を指定しておく

遺言執行者とは、遺言者の指定後に遺言書に記載されていることを実現する人のことです。行政書士などの専門家を指定することで、執行の際のトラブルを少なくすることができます。

遺言によくある誤解

遺言は争いの元

遺言は争いの元ではなく、争わないための予防措置と言えます。

お金持ちがするもの

確かにお金持ちが遺言を残すイメージがございます。うちは遺言を残すほどの財産は無いと考えている方も多いかと思います。しかしながら、実際は財産が少ないほど争いになっております。財産の多少ではなく、争わないための有効な手段なのです。

遺言を書くほど年をとっていない

遺言を書くことに年齢は関係ありません。時間が経てば書き直すこともできます。また、認知症などになってしまった場合はもう遺言を書くことはできません。

家族仲が良いので関係ない

家族がみんなで譲り合い円満な相続になるにこしたことはございません。しかしながら、その時の人間関係や経済状況は必ずしも今と一緒とは限りません。また、外から知恵を授ける人もいるかもしれません。仲が良いのであれば相続で争うことが無いよう遺言で円満相続にすることが大切なことだと思います。

遺言を書いてしまうと財産を自由に使えなくなる

ご自身の財産なので自由にお使いになることができます。また、遺言は書き直すこともできます。